妊娠・出産という一大ライフイベントを迎えるにあたり、避けては通れないお金の問題。さまざまな助成が受けられることはなんとなく聞いたことがある、という人は多いかもしれません。
ですが、具体的にどんな手順でどのくらいのお金がもらえるのかを詳しく知らないことには、手続きも取れないし計画も立てられませんよね。この記事では、特に負担の大きい出産費用を補填してくれる「出産育児一時金」について、詳しく解説します☆
出産育児一時金の申請方法
実は出産育児一時金の受け取り方には3種類の方法があるんです。
どの方法で受け取るかによって、申請の仕方が変わってくるので、ここでは具体的な受け取り方と申請の方法をあわせてお伝えします。
直接支払制度を利用する場合
直接支払制度とは、プレママに代わって分娩施設が出産育児一時金の申請と受け取りの両方をおこなう制度です。
この制度を使うと、出産育児一時金は分娩施設に直接支払われます。
これはそのまま出産費用に充てられるため、退院時に必要なのは出産育児一時金で足りなかった差額だけとなります。
必要な契約書類を分娩施設と交わせば、手続きは終了です。
大きな病院などほとんどの分娩施設で導入されている、とても便利な制度です。
受取代理制度を利用する場合
受取代理制度とは、プレママに代わって分娩施設が出産育児一時金の受け取りのみをおこなう制度です。つまり出産育児一時金の申請は自分で行う必要があるので、直接支払制度より多少の手間がかかります。
小規模な分娩施設では、出産育児一時金の受け取りのみをおこなう受取代理制度を導入していることが多いようです。
分娩施設を決めた段階で、使用できる制度が自動的に決まるので、事前に確認しておくと安心ですね。
支給申請は、出産予定日より2ヶ月前以降から申請可能になります。
必要書類は基本的に以下の2点です。
・出産育児一時金申請書(加入している健康保険・国民健康保険所定のもの)
・母子健康手帳の出産予定日記載ページの写し
申請時期に慌てないように、早めに準備しておけると安心ですよ。
産後申請方式で受け取る場合
出産育児一時金を自分で受け取る方法もあります。
この場合は、退院時に一旦請求額をすべて支払い、その後に出産育児一時金の支給申請をおこないます。
この方式の場合は産後お金が振り込まれるまでに1~2ヶ月の時間がかかるので、資金に余裕があるか確認したうえで選んだほうがよさそうです。
必要書類は基本的に以下の1点です。
・出産育児一時金支給申請書(加入している健康保険・国民健康保険所定のもの)
産後はとっても忙しいですし、医師・助産師による記入欄は入院時に書類を持参して書いてもらうとスムーズなので、書ける箇所は早めに記入して準備しておくと良いですよ☆
出産育児一時金の制度を理解しよう
そもそも出産育児一時金とは?
出産育児一時金とは、加入している健康保険・国民健康保険から出産の際にお金が支給してもらえる制度のことを言います。
この制度、もともとは分娩費と育児手当金とされていた補助金が統合されたものなんです。
妊娠は病気ではないため、妊婦検診も分娩も、健康保険を使うことができません。
つまり、原則として妊娠・出産にかかる費用はすべて自費扱いとされているんです。
全部で14回前後の妊婦検診には自治体が発行している補助券を使うことができますが、補助券適用外の検査もありますし、また緊急時に受診が必要な際も自費での扱いとなるんですね。
加えて分娩に要するお金は、実に数十万円にもなります。
出産育児一時金は、そんな大きな出費となるにも関わらず、健康保険の適用外となっている妊娠・出産費用の負担を軽くすることを目的として作られた制度なんですね。
支給の対象者は?
原則として次の二つの条件を満たしていれば、支給の対象となります。
①妊娠13週以降(85日以降)に出産すること
37週目以降の正産期の出産はもちろん支給されます。
あまり考えたくはありませんが、万が一早産や流産になってしまった場合でも、13週以降(85日以降)の出産であれば支給の対象となります。
ここでいう妊娠週数・日数は医師の判断になるので、必要時に医師に相談すれば証明がもらえますよ。
②健康保険もしくは国民健康保険の被保険者であること
(もしくは配偶者が被保険者であり、その被扶養者であること)
まず、プレママ本人が被保険者であり、保険料をきちんと納めていれば支給対象となります。
もしくは、ご主人など家族の保険に扶養家族として入っていればOKというこです。
いくらもらえるの?
では、実際にいくらの金額の支給を受けることができるのでしょうか。
まず原則としては、支給額は一律で子ども1人あたり42万円とされています。
双子の場合なら、2倍の84万円を受け取ることができるということになります。
42万円以上もらえる場合
会社で加入する健康保険の場合、各健康保険組合が独自に設定した付加金を受け取れる可能性があります。
健康保険組合によって付加金の有無・金額が異なるので、加入している組合のホームページなどで確認したり、窓口に問い合わせてみるのが良いでしょう☆
42万円満額もらえない場合
この出産育児一時金ですが、実は42万円満額をもらえない場合もあるんです。
以下2つのいずれかである場合、受け取れる金額は40万4千円となります。
①産科医療補償制度に加入していない分娩施設で出産する場合
出産する分娩施設(産婦人科の医院や助産院など)が、もし「産科医療補償制度」に加入していなければ、受け取れる金額は40万4千円です。
ただ、産科医療補償制度の運営組織である日本医療機能評価機構によると、2019年7月時点でほぼ100%の病院・診療所および助産所が加入しているので、このケースはあまり考えなくても良いのかもしれません。
②妊娠22週未満での出産であった場合
妊娠85日以降(13週以降)での出産であれば、出産育児一時金が支給されますが、妊娠22週未満の出産であった場合は40万4千円の支給となります。
出産育児一時金で出産費用は足りるの?
出産育児一時金は妊娠・出産費用の負担を軽くするためのものとお話しましたが、実際にどのくらい出産費用をまかなうことができるのでしょうか。
実は出産する分娩施設や地域によって、分娩費用は大きな差があるんです。
つまり、出産する場所によって出産育児一時金が不足することも、余剰が出ることもありえるんですね。
・分娩施設による分娩費用の差
病院・診療所・助産所の3つにわけて、費用の差を見てみましょう。
平成28年度の各施設の費用平均値は以下の通りです。
”病院 511,652円
診療所 501,408円
助産所 464,943円”
引用:国民健康保険中央会 「出産費用の全国平均値、中央値(様式1~4)」
病院と助産所を比較すると、およそ5万円もの差があるんですね。
・地域による分娩費用の差
次に、地域ごとの分娩費用について、具体的に見てみましょう。
平成28年度の県ごと分娩費用平均値の上位と下位は、以下の通りです。
上位3位
”1位 東京都 621,814円
2位 神奈川県 564,174円
3位 栃木県 543,457円”
下位3位
”1位 鳥取県 396,331円
2位 熊本県 415,923円
3位 沖縄県 418,164円”
引用:国民健康保険中央会 「出産費用の都道府県別平均値、中央値(様式5)」
いかがでしょうか。
上位1位の東京都と、下位1位の鳥取県の差額は実に10万円以上にもなるんですね。
出産育児一時金がもらえないケース
加入している健康保険の保険料に未納分があると出産育児一時金は支給されないことがあります。
もし滞納してしまっていたら、すみやかに支払えるようにしたいですね。
万が一支払いが難しいようならば、自治体の窓口まで相談してみてください。
出産育児一時金と分娩費用の差額はどうなる?
基本的に出産育児一時金は、全国一律42万円(産科医療保障制度未加入の分娩施設での出産、もしくは妊娠13週目以降22週未満の場合は40万4千円)とされています。
一方で分娩費用は、出産する施設や地域、そして緊急時の医療介入の有無によっても変動します。
そのため、分娩費用が出産育児一時金でまかなえない場合と足りておつりが出る場合、いずれも考えられるんですね。
出産育児一時金で不足する場合
出産育児一時金の42万円よりも出産費用が多額になった場合は、42万円を超えた差額分は自費での支払いとなります。
分娩施設ではもちろん最終的な支払に関する案内をしてもらえますが、急な請求増に慌てないように余裕を持ってお金の準備ができたらいいですね☆
出産育児一時金で余剰が出た場合
出産育児一時金の42万円よりも出産費用が少額で済んだ場合には、差額分のお金を受け取ることができます。
42万円以内で出産費用がおさまった場合は、もちろん窓口での支払いの必要はありません。
差額分の請求を、産後に自分でおこなう必要があるのでちょっぴり大変ですが、大切なお金のことなのでぜひ忘れずに申請してくださいね。
出産育児一時金差額請求の必要な書類
では、具体的に差額の請求にあたって必要な書類を見ていきましょう。
産後、加入している健康保険組合から、分娩施設への出産育児一時金支払が完了したことを通知する支給決定通知書が届きます。
実は、差額請求のやり方は2通りあり、それぞれ必要な書類が異なります。
・支給決定通知書が届く前に請求する場合:「内払金支払依頼書」に必要事項を記入
・支給決定通知書が届いた後に請求する場合:「差額申請書」に必要事項を記入
ややこしいのですが、間違えないようによく確認して準備を進めてくださいね。
帝王切開でも出産育児一時金はもらえる?
帝王切開などの医療行為が必要となる分娩の場合でも、もちろん出産育児一時金をもらうことができます。
条件は正常分娩のときと同様に、以下の2点です。
・妊娠13週以降(85日以降)に出産すること
・健康保険もしくは国民健康保険の被保険者であること
(もしくは配偶者が被保険者であり、その被扶養者であること)
資格喪失後(退職後)の出産育児一時金はどうなる?
出産育児一時金は、原則として加入している健康保険・国民健康保険から支給されるものです。
実は一定の条件を満たしていれば、退職して資格喪失した後であっても、在職中に加入していた健康保険組合から出産育児一時金を受け取ることができるんですよ☆
健康保険組合加入中と同じく妊娠4ヶ月(85日)以降の出産であることを前提として、資格喪失後は次の3つの条件すべてを満たしていれば支給対象となります。
・継続して1年以上の被保険者期間があること(ただし、任意継続被保険者期間は除きます)
・資格喪失から6ヵ月以内の出産であること
・退職後、被扶養者として他の健康保険組合から出産に関する給付を受けていないこと
(他の健康保険組合からの給付と重複することはできないため、一方を選択することとなります)
ちなみに、資格喪失後は各健康保険組合独自におこなっている付加金については、残念ながら支給されないことがほとんどのようです。
出産育児一時金以外の免除や助成について
出産手当金
出産手当金とは、働くプレママが出産のために勤務先を休んだときに、加入している健康保険組合から支給されるお金です。
通常は仕事を休むと給料が支払われなくなりますが、出産手当金はお休み中でもプレママの生活を保障し、出産前後を安心して過ごせるように支払われるんですね。
もらえる期間は、出産前42日(双子以上の多児妊娠の場合は98日)から、出産翌日より56日までの間です。
なお、出産日が遅れた場合に関しては、その日数をプラスで数えることができますよ。
もらえる金額は、基本的に「日給の2/3×実際に会社を休んだ日数」です。
出産手当金は、働いている会社での給与を元に計算して支給されるものなので、出産育児一時金のように一律の金額にはならないのですね。
保険料免除ができる場合も
会社で加入している健康保険および厚生年金保険の場合
産休中の免除はありませんが、育児休業中は会社で加入している健康保険および厚生年金保険はいずれも支払が免除されます。
被保険者が行う手続きは特になく、事業主が社会保険事務所に申し出ると、被保険者の保険料負担分とともに事業主の保険料負担分も免除されるしくみになっているんですね。
免除される期間ですが、「育児休業を開始した日が属する月から、これを終了する日の翌日が属する月の前月まで」となっています。
例えば、3月10日から12月20日まで育児休業をとった場合は
『育児休業を開始した日が属する月→3月』
『これを終了する日の翌日が属する月の前月→11月』
となるため、3月~11月分の保険料が免除ということになります。
国民健康保険および国民年金保険の場合
残念ながら、国民健康保険に関しては免除制度がありません。
一方で以前までは国民健康保険と同様に免除制度がなかったものの、国民年金保険については平成31年2月1日以降の出産に対しての免除制度が設けられました。
免除対象期間は、出産予定日又は出産日が属する月の前月から4か月間です。
家族出産育児一時金
専業主婦やパートなどで働くプレママは、配偶者の扶養に入っている場合がありますよね。
この場合、プレママ自身は被保険者ではありませんが、扶養している配偶者を介して支給されるお金を家族出産育児一時金と言います。
このような制度があるので、被保険者でないプレママも、安心していてくださいね☆
無利子で貸付される出産費貸付制度
出産費貸付制度とは、出産育児一時金の一部を前借りすることができる制度のことです。
出産費用を用意することが難しい健康保険の被保険者が、安心して出産するための制度が「出産費貸付制度」というわけです。
なお、貸付してもらえる上限額については、加入している健康保険・国民健康保険によって異なります。
利用予定がある場合は、加入している健康保険組合の窓口・市区町村の窓口に事前に確認しておくと安心ですよ☆
この制度は出産育児一時金から貸付けされるものなので、利用すると直接支払制度または受取代理制度、産後申請方式は使えなくなります。
この点も踏まえて、利用計画を立ててみてくださいね!
対象者
利用条件については、前提として、プレママ本人もしくは扶養されている配偶者などの家族が健康保険・国民健康保険に加入していることが必要です。つまり、しっかりと保険料の支払をしてさえいれば大丈夫ということです。
その上で、以下2つのうち、いずれかに該当すれば出産費貸付制度を利用することができますよ。
・出産予定日まで1ヶ月以内であること
・妊娠4ヶ月以上であり、分娩施設へ一時的な支払いが必要であること
申請方法/必要書類
必要な書類は「出産費貸付金貸付申込書」です。
また、必要な添付書類は主に以下の通りです。
・出産予定日まで1ヶ月以内の場合:母子健康手帳の出産予定日記載ページの写し
・妊娠4ヶ月以上であり、分娩施設へ一時的な支払いが必要な場合:分娩施設が発行した出産費用の請求書や領収書
上記はどの健康保険組合でも一般的に共通した書類となりますが、組合によってはこれ以外に必要な書類もありますので、詳細な手続き方法はかならず加入している健康保険組合に確認してくださいね☆
出産費貸付制度の返済方法は?
出産育児一時金の支払いとお金の貸付けは、いずれも加入している健康保険組合で行われるので、組合の側で出産育児一時金の給付時に前借りしたお金と相殺してくれるしくみになっているんです。
差額分はもちろんこのときに振り込んでもらえるので、安心してくださいね☆
出産育児一時金や各助成金について知り、賢く利用しよう!
出産育児一時金をはじめとして、妊娠・出産に関する助成制度をご紹介しましたが、申請が必要だったり手続きが複雑なものも多いですよね。
また、加入している健康保険の種類や、被保険者か被扶養者かの立場によっても、利用できるもの・できないものがありました。
妊娠期間はあっという間に過ぎてしまいますし、産後は赤ちゃんのお世話で精一杯になりがちです。
「気づいたら申請できる・もらえる時期を過ぎていた!」「お金が足りない!」
なんて慌てることのないように、これを機会に自分が使える制度を確認して、頭に置きながら過ごしてくださいね☆